法人税 安い国
法人税が安い国の比較【2026年】マレーシア・ドバイ・香港・シンガポール
最終更新日:2026-08-07
「法人税が安い国」で検索すると、税率のランキング表が並びます。しかし税率だけで法人設立先を決めると、ほぼ確実に失敗します。理由は3つあります。第一に、低税率の適用にはどの国でも実質活動要件が付いていること。第二に、維持コストが国によって桁違いに違うこと。第三に、日本の外国子会社合算税制が「税率20%未満」を基準に網を掛けていること。この記事では、税率表の一段深いところで各国を比較します。
税率だけの比較表と、その限界
まず、よく見かける形の比較から始めます。日本人が海外法人設立の候補にする主要国の法人税率は、以下のとおりです。
この表を見ると、ラブアンの3%が突出して低く見えます。しかし実際には、この数字がそのまま実現するケースは限られています。どの法域も、低税率の適用に条件を付けているためです。
香港の8.25%は最初のHKD200万までの部分に対する税率で、それを超える部分は16.5%です。ドバイの0%はフリーゾーンにおける「適格所得」に限られ、本土での事業やフリーゾーン外との取引には9%が適用されます。シンガポールの17%も、スタートアップ免税や部分免税の適用で実効税率は下がりますが、免税枠には上限があります。
つまり、税率表は入口にすぎません。判断に必要なのは「自分の事業がその低税率の適用条件を満たすか」です。
| 国・法域 | 法人税率 | 低税率の適用条件 | 備考 |
|---|---|---|---|
| マレーシア(ラブアン) | 3%(トレーディング)/0%(ノントレーディング) | 業種別の実質活動要件 | IP所得は対象外 |
| UAE(ドバイ) | 0%(フリーゾーン適格所得)/9% | フリーゾーンの適格所得要件 | AED375,000以下は0% |
| 香港 | 8.25%(最初のHKD200万)/16.5% | 二段階税率はグループで1社のみ | オフショア所得免税は申請制 |
| シンガポール | 17% | スタートアップ免税・部分免税あり | 実効税率は免税枠で低下 |
| マレーシア(本土) | 15〜17%(中小の一部)/24% | 払込資本RM250万以下等 | SME要件を満たす場合 |
| タイ | 20% | 中小企業向け軽減あり | BOI恩典で免税期間も |
| ベトナム | 20% | 優遇業種・地域で軽減 | — |
| 日本(参考) | 実効約29.7% | — | 中小の軽減税率あり |
第2の軸:実質活動要件をクリアできるか
2010年代後半以降、OECDの有害税制対抗プロジェクトとEUの非協力的法域リストへの対応により、低税率法域は軒並み実質活動要件(Economic Substance Requirements)を導入しました。
これは「登記だけの箱に低税率を認めない」という考え方です。ラブアンでは業種ごとに常勤従業員数とラブアンでの年間支出額が定められ、UAEでも関連活動を行う法人にサブスタンス要件が課されます。香港のオフショア所得免税も、実際の業務がどこで行われたかを立証する必要があります。
実務上の意味はこうです。低税率を享受するには、その国に人を置き、オフィスを構え、実際に業務を行う必要がある。つまり固定費が発生します。そしてこの固定費は、多くの場合、税率差による節税額を上回ります。
判断の順序は、税率の比較ではなく「その国に実体を置けるか」からです。自分がその国に住む予定があるのか、人を雇えるのか、業務を移せるのか。ここが成立しないなら、税率がいくら低くても選択肢になりません。
第3の軸:維持コストは国によって数倍違う
法人の維持コストは、税率と同じくらい重要な比較軸です。とくに利益規模が小さいうちは、維持コストのほうが税額より大きくなります。
マレーシア本土のSdn Bhdは、この点で優位です。カンパニーセクレタリー、会計、監査を含めても年間RM8,000〜2万程度(概ね30万〜70万円)で維持できます。物価と人件費の水準がそのまま反映されるためです。
一方、シンガポールは会社設立自体は容易ですが、レジデントディレクター(居住取締役)の要件があり、自分が居住者でない場合はノミニーディレクターの費用が年間で数千シンガポールドル発生します。オフィスコストと人件費も高水準です。
ドバイは、フリーゾーンのライセンス費用が年間で数千〜1万数千ドル規模、これにビザ費用とオフィス(フレキシデスクでも)費用が乗ります。ラブアンは登録エージェント費用が年USD2,500〜5,000に加え、実質活動要件の充足費用が実費で乗ります。
結果として、年間の維持コストは、マレーシア本土 < ラブアン ≒ ドバイ < シンガポール、という並びになるのが一般的です。
| 国・法域 | 年間維持コストの目安 | 居住取締役要件 | ビザの取りやすさ |
|---|---|---|---|
| マレーシア本土 | 約30万〜70万円 | マレーシア居住の取締役1名 | EP(給与要件が2026年6月に引上げ) |
| マレーシア(ラブアン) | 約50万〜100万円+実体費用 | 不要(ただし実質活動要件) | ディレクター向け制度あり |
| UAE(ドバイ) | 約80万〜200万円 | 不要 | フリーゾーンで比較的取りやすい |
| 香港 | 約30万〜60万円 | 不要 | 就労ビザは審査が厳しい |
| シンガポール | 約100万〜250万円 | 居住取締役が必須 | EPの給与要件が高い |
| タイ | 約40万〜80万円 | — | BOI経由なら比較的容易 |
第4の軸:日本の外国子会社合算税制という共通の壁
日本人・日本企業にとって、どの国を選んでも避けられないのが外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)です。
判定の基準は「租税負担割合20%未満」です。ラブアン3%、ドバイ9%、香港8.25%は、いずれもこの基準を下回ります。シンガポール17%も下回ります。つまり、この記事で挙げた低税率法域のほぼすべてが、日本側の合算税制の判定対象に入ります。
合算課税を回避するには、経済活動基準(事業基準・実体基準・管理支配基準・所在地国基準または非関連者基準)をすべて満たす必要があります。要するに「その国で本当に事業をしているか」が問われます。ここでも実体の話に戻ってきます。
さらに、ペーパーカンパニー・事実上のキャッシュボックス・ブラックリスト国所在の会社と判定されると、租税負担割合30%未満で会社単位の合算課税という、より厳しい扱いになります。
結論として、日本に住み続けたまま低税率国に法人を作って税負担を下げる、という発想はどの国を選んでも成立しません。成立させるには、株主自身の居住地を含めた設計が必要です。
マレーシアはどの位置にいるか
以上の4軸で見たとき、マレーシアの立ち位置は明確です。
強みは3つあります。第一に、生活コストと維持コストが低いこと。シンガポールやドバイと比べて、法人維持費も生活費も明確に安く、同じ実体を作るコストが低く済みます。第二に、本土24%(中小15〜17%)とラブアン3%という2つの選択肢を、事業実態に応じて使い分けられること。第三に、配当のシングルティア制度により株主段階の課税がないこと。
弱みもあります。就労ビザ(EP)の給与要件が2026年6月に引き上げられ、現地採用のハードルが上がりました。また銀行口座の開設難易度は年々上がっており、実体の薄い法人は口座を開けない可能性があります。
総合すると、マレーシアは「実際にその国に住んで、実体を持って事業をする人」にとって、コストパフォーマンスの高い選択肢です。逆に「住まずに箱だけ欲しい人」には、どの国も同じく機能しません。この結論は、税率表からは見えてこない部分です。
- マレーシアの強み:維持コストと生活コストの安さ
- マレーシアの強み:本土24%とラブアン3%を使い分けられる
- マレーシアの強み:配当のシングルティア制度
- マレーシアの弱み:EPの給与要件引き上げ(2026年6月〜)
- マレーシアの弱み:法人口座の開設難易度の上昇
- 共通の前提:どの国でも「実体」がなければ低税率は使えない
出典
よくある質問
結局、どの国が一番税金が安いですか?
税率だけを見ればラブアン(3%)やドバイのフリーゾーン(適格所得0%)が最も低くなります。ただし、その税率を適用するには実質活動要件を満たす必要があり、そのためのコスト(人件費・オフィス・現地支出)が発生します。さらに日本側の外国子会社合算税制をクリアする必要もあります。したがって「一番安い国」は事業内容と株主の居住地によって変わり、一般解はありません。年間の税額と維持コストの合計で比較してください。
シンガポールとマレーシア、どちらがいいですか?
事業規模と目的によります。シンガポールは金融インフラ、法制度の安定性、国際的な信用力で優れ、大型の資金調達やアジア統括拠点には適しています。一方でオフィス・人件費・生活費が高く、維持コストはマレーシアの2〜4倍規模になります。マレーシアは維持コストが低く、ラブアンという選択肢もあり、生活コストも抑えられます。小〜中規模で自分自身が現地に住んで事業を行うならマレーシア、大規模な資金調達や国際的な信用が必要ならシンガポール、という整理が実務的です。
ドバイの法人税0%はまだ使えますか?
UAEは2023年6月から連邦法人税(9%)を導入しました。ただしフリーゾーンの適格法人が得る「適格所得」については0%が維持されています。適格所得の範囲は限定されており、UAE本土の顧客との取引や、適格活動に該当しない収入には9%が適用されます。また課税所得AED375,000以下の部分は0%です。「ドバイは無税」という理解は現在の制度とは異なるため、事業内容が適格所得に該当するかを個別に確認する必要があります。
香港のオフショア所得免税はどうなっていますか?
香港は属地主義を採用しており、香港外を源泉とする所得は原則として課税されません。ただしこの免税は自動的ではなく、税務局への申請と実質的な業務遂行場所の立証が必要です。加えて2023年からは、受動的所得(利子・配当・株式譲渡益・IP所得)について、実質活動要件を満たさない場合は香港で課税する制度(FSIE制度)が導入されています。かつてのような「香港法人で自動的に無税」という運用は現在では成立しません。
グローバルミニマム課税で低税率国のメリットはなくなりますか?
影響を受けるのは、連結売上高7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループです。この規模に該当する場合、低税率国に子会社を置いても実効税率15%までトップアップ課税されるため、税率差のメリットは消えます。一方、中小企業や個人の法人設立はこの閾値に該当しないため、直接の影響はありません。ただし国際的な潮流として実質活動要件は今後も強化される方向であり、「実体のない法人」の余地は縮小し続けると考えるべきです。
免責事項
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