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マレーシア法人設立ガイド【2026年版】形態・手順・費用を決める順番

最終更新日:2026-08-07

マレーシアの法人設立を調べ始めると、「Sdn Bhd」「ラブアン」「法人税3%」といった単語が一度に出てきて、何から決めればいいのか分からなくなります。しかし実務の順番は決まっています。①事業実態がどこにあるか →②器(法人形態)→③税率 →④ビザ →⑤銀行口座、の5段階です。この順番を飛ばして「税率が安いから」で器を選ぶと、実質活動要件を満たせず優遇税制が使えない、あるいは日本側で合算課税されるという結末になります。この記事では、決定の順番に沿ってマレーシア法人設立の全体像を整理します。

まず結論:マレーシアの法人設立は「2つの制度」に分かれている

マレーシアで法人を持つルートは、実質的に2つあります。ひとつは本土(半島マレーシア・サバ・サラワク)にCompanies Act 2016に基づいて設立するSdn Bhd(Sendirian Berhad=非公開有限会社)。もうひとつが、ラブアン島の国際ビジネス金融センターにLabuan Companies Act 1990に基づいて設立するラブアン法人です。

この2つは同じ「マレーシア法人」でありながら、根拠法も監督官庁も税法も別物です。Sdn Bhdの監督はSSM(マレーシア企業委員会)、課税はIncome Tax Act 1967で標準税率24%。ラブアン法人の監督はLabuan FSA(ラブアン金融サービス庁)、課税はLabuan Business Activity Tax Act 1990(LBATA)でトレーディング活動は監査済み純利益の3%です。

ここで多くの人が「ではラブアン一択では」と考えますが、そう単純ではありません。ラブアンの3%には業種別の実質活動要件(従業員数とラブアンでの年間支出)が課されており、これを満たさなければ24%課税に戻ります。さらにマレーシア国内の顧客と取引する事業では、支払側の損金算入制限がかかるため実務上不利になります。

判断の分岐点は「顧客と事業実態がどこにあるか」です。マレーシア国内で商売をする、現地で人を雇う、現地の許認可がいる事業なら本土のSdn Bhd。顧客が国外にあり、マレーシアを持株・国際取引の拠点として使うならラブアンが選択肢に入ります。

Sdn Bhd とラブアン法人の基本比較(2026年8月時点)
項目本土 Sdn Bhdラブアン法人
根拠法Companies Act 2016Labuan Companies Act 1990 / LBATA 1990
監督官庁SSM(マレーシア企業委員会)Labuan FSA(ラブアン金融サービス庁)
法人税率24%(中小は課税所得の一部に15〜17%)トレーディング3%/ノントレーディング0%(要件充足時)
設立ルートSSMへ直接/セクレタリー経由Labuan FSA認可の登録エージェント経由のみ
マレーシア国内取引制限なし可能だが支払側に損金算入制限あり
実質活動要件(優遇税制利用時を除き)なし業種別に従業員数・年間支出額の要件あり
監査原則必要(小規模は免除制度あり)トレーディング活動は監査必須
向いている事業マレーシア国内向けの事業・現地進出国外顧客向けの取引・持株・資産管理

ステップ1:器を決める前に「事業実態の所在」を確定する

法人形態の選択より先に決めるべきなのが、事業の実態がどこにあるかです。ここが曖昧なまま器を選ぶと、後から取り返しがつきません。

確認すべきは3点です。第一に顧客の所在地。マレーシア国内の顧客に売るのか、日本や第三国の顧客に売るのか。第二に業務の遂行場所。誰がどこで働いて価値を生んでいるのか。第三に意思決定の場所。取締役会が実際にどこで開かれ、誰が決めているのか。

この3点は、マレーシア側では実質活動要件(ラブアンの場合)や恒久的施設(PE)の判定に、日本側では外国子会社合算税制の経済活動基準の判定に直結します。とくに「日本に住んだまま、マレーシアに登記だけした法人」は、日本側で管理支配基準を満たさないと判断されるリスクが高く、税務上のメリットが消えるどころか、申告漏れとして追徴を受ける可能性があります。

逆に、マレーシアに移住して自らが現地で業務を行い、現地に事務所と従業員を置くのであれば、実態と登記が一致し、制度を素直に使えます。法人設立の前に、居住地をどうするかを決めておくべき理由がここにあります。

  • 顧客はどこにいるか(国内向け=Sdn Bhd/国外向け=ラブアンも選択肢)
  • 誰がどこで働くか(実質活動要件・PE判定に直結)
  • 取締役会をどこで開くか(管理支配基準に直結)
  • 自分自身が日本の居住者のままか、マレーシアに移住するか
  • マレーシアで許認可が必要な業種か(小売・流通はWRT許可など)

ステップ2:Sdn Bhd の設立要件と手順

本土に法人を設立する場合、最も一般的な形態がSdn Bhd(非公開有限会社)です。株主の責任は出資額に限定され、日本の株式会社に近い性格を持ちます。

設立要件はシンプルです。株主は最低1名(法人株主も可、外国人100%出資も多くの業種で可能)、取締役は最低1名で、その取締役は18歳以上・破産者でないこと、そして「マレーシアに主たる居所を有する(ordinarily resident)」ことが求められます。ここは国籍要件ではなく居所の要件である点が重要です。長期滞在ビザを持つ日本人が就任すれば要件を満たせます。

法律上の最低払込資本はRM1ですが、これはあくまで会社法上の話です。設立後に外国人の就労ビザ(Employment Pass)を申請する段階では、出資比率に応じた払込資本のガイドラインが実務上適用されます。100%外資であればRM50万以上が一般的な目安で、業種や申請部署によって扱いが変わります。「RM1で設立できる」という情報だけを見て資本金を最小にすると、ビザ申請の段階で増資し直すことになります。

もうひとつ必須なのがカンパニーセクレタリーです。Companies Act 2016により、設立から30日以内にSSM登録の有資格者を選任しなければなりません。日本の会社にはない役職で、登記関連書類の管理・提出を法的に担う存在です。実務上は設立代行と一体で依頼するのが通例です。

Sdn Bhd 設立の手順と目安期間(2026年8月時点)
ステップ内容目安期間費用の目安
1. 社名の予約SSMのMyCoIDで名称検索・予約1〜3営業日RM50
2. 書類準備定款、取締役・株主情報、登録住所の確保3〜10営業日代行費用に含むことが多い
3. 登記申請SSMへオンライン申請(Superform)1〜5営業日RM1,000
4. セクレタリー選任設立後30日以内に有資格者を選任設立と同時月RM300〜800程度
5. 税務登録LHDNで法人の納税者番号を取得3〜10営業日実費
6. 銀行口座開設各行の審査(対面必須のことが多い)2週間〜2か月口座維持残高が必要
7. 許認可・ビザ業種別ライセンス、EP申請1〜3か月別途

ステップ3:本土法人の税率は24%、ただし中小企業には軽減がある

Sdn Bhdの法人税は標準24%です。ただし中小企業(SME)に該当すると、課税所得の一定部分に軽減税率が適用されます。

SMEの判定は、事業年度開始時の払込資本がRM250万以下であり、かつ当該事業年度の売上高がRM5,000万以下であることが基本です。加えて、払込資本RM250万超の関連会社が支配関係にある場合は対象外となる規定があり、日系企業の現地子会社は資本関係の要件で外れるケースが多くあります。

軽減税率が適用される場合、課税所得のうち最初のRM15万に15%、RM15万超RM60万以下の部分に17%、RM60万を超える部分に24%が適用される段階構造です。年間の課税所得がRM60万の会社であれば、単純に24%を掛けるのに比べて年間RM4万強の差になります。

また配当については、マレーシアはシングルティア制度を採用しており、法人段階で課税された後の利益から支払う配当は、株主段階では原則として課税されません。日本のように配当に再度課税される二重構造がない点は、マレーシア法人の実務的な利点です。ただしYA2025からは、個人居住者が年間RM10万を超えて受け取る配当に2%の課税が導入されています。

マレーシア本土法人の法人税率(2026年8月時点)
区分課税所得の範囲税率
中小企業(SME)最初の RM150,00015%
中小企業(SME)RM150,001〜RM600,00017%
中小企業(SME)RM600,001 以上24%
上記以外の法人全額24%
ラブアン法人(トレーディング)監査済み純利益3%
ラブアン法人(ノントレーディング)0%

ステップ4:ラブアン法人は「3%」ではなく「条件付き3%」

ラブアン法人はマレーシア法人設立の文脈で最も注目されますが、正確に理解しておくべき点が3つあります。

第一に、3%が適用されるのは「ラブアンのビジネス活動」に該当する所得のみです。LBATAはラブアンの活動をトレーディング(貿易・サービス・管理・ライセンス業務など)とノントレーディング(投資有価証券・不動産の保有など)に分け、前者は監査済み純利益の3%、後者は0%としています。

第二に、2019年以降、実質活動要件が導入されました。業種ごとに「ラブアンに常勤の従業員を何名置くか」「ラブアンで年間いくら支出するか」が規則で定められており、これを満たさない場合、LBATAの優遇は適用されず通常の所得税法に基づく24%課税になります。たとえばラブアンのトレーディング会社では常勤2名・年間運営支出RM10万といった水準が求められます(業種により異なります)。

第三に、知的財産(IP)から生じる所得はLBATAの対象外とされ、通常課税となります。ロイヤリティ収入を主軸に置く設計はここで崩れます。

加えて、マレーシア国内の法人がラブアン法人に支払う一定の費用(利子・賃借料・その他の支払い)は、支払側で損金算入が制限されます。マレーシア国内向けのビジネスにラブアン法人を挟む構成が実務上不利になるのはこのためです。

  • 3%はトレーディング活動の「監査済み純利益」に対する税率
  • ノントレーディング(純粋な投資保有)は0%
  • 実質活動要件(常勤従業員・ラブアンでの年間支出)を満たさなければ24%
  • IP(知的財産)由来の所得はLBATAの対象外
  • マレーシア国内法人からの支払いには損金算入制限がかかる
  • 設立はLabuan FSA認可の登録エージェント(トラストカンパニー)経由のみ

ステップ5:日本側の税制を無視すると、設計が崩れる

マレーシア法人設立を検討する日本人にとって、実は最大の論点はマレーシア側ではなく日本側です。日本には外国子会社合算税制(いわゆるタックスヘイブン対策税制)があり、これを踏まえない設計は成立しません。

仕組みはこうです。日本の居住者・内国法人が持分50%超を保有する外国関係会社について、その租税負担割合が20%未満である場合、経済活動基準(事業基準・実体基準・管理支配基準・所在地国基準または非関連者基準)を満たさなければ、会社の所得が日本側の株主に合算され、日本の税率で課税されます。持分5%以上の株主が合算の対象です。

法人税率3%のラブアン法人は、当然この20%基準を下回ります。したがって、経済活動基準の4つをすべて満たしていることを説明できなければ、日本にいる株主に合算課税が生じます。さらに、実体を欠くペーパーカンパニー等と判定されると、租税負担割合30%未満でも会社単位で合算されるという、より厳しい取扱いになります。

この構造から導かれる実務上の結論は明確です。日本の居住者のままラブアン法人を保有して節税する、という設計は基本的に成立しません。制度を活用するのであれば、自分自身がマレーシアの居住者となり、現地に実体を置くところまでを一体で設計する必要があります。なお、日本を出る際には国外転出時課税(有価証券等1億円以上の保有者が対象)も検討事項に入ります。

この領域は国際税務の専門知識を要します。本サイトは制度の全体像を整理する目的で解説していますが、実行前には必ず日本・マレーシア双方の有資格者に確認してください。

ステップ6:費用の全体像(初期費用と毎年の維持費)

法人設立の意思決定でよく見落とされるのが、初期費用ではなく毎年の維持費です。マレーシア法人は設立して終わりではなく、カンパニーセクレタリー費用、会計記帳、監査、年次申告(Annual Return)、法人税申告が毎年発生します。

本土Sdn Bhdの場合、SSMへの登記費用自体はRM1,000と安価ですが、設立代行一式ではRM4,000〜8,000程度が相場です。維持費はセクレタリー費用が年RM3,600〜9,600程度、会計・監査が事業規模に応じて年RM3,000〜1万超。休眠に近い会社でも年間RM8,000前後は見込む必要があります。

ラブアン法人は、登録エージェント経由でしか設立できない構造上、費用が高くなります。設立費用でUSD3,000〜6,000程度、年間維持費でUSD2,500〜5,000程度が目安です。加えて実質活動要件を満たすための人件費とラブアンでの支出が実費で乗ります。この「要件充足コスト」を織り込むと、年間の維持コストは相応の規模になります。

結果として、利益が小さい段階でラブアン法人を作ると、節税額より維持コストのほうが大きくなります。制度が有効に働き始める利益水準を先に試算してから判断してください。

法人設立・維持コストの目安(2026年8月時点・代行会社の一般的な相場)
項目本土 Sdn Bhdラブアン法人
SSM/FSA 公的手数料RM1,000+名称予約RM50年次登録料が別途(業種により異なる)
設立代行費用RM4,000〜8,000程度USD3,000〜6,000程度
カンパニーセクレタリー年 RM3,600〜9,600程度エージェント費用に含むことが多い
会計・監査年 RM3,000〜(規模による)年 USD1,500〜(監査必須)
登録住所・オフィス年 RM1,200〜ラブアンでの事務所が要件になる場合あり
実質活動要件の充足費用常勤従業員の人件費+年間支出の下限

よくある失敗パターンと、その回避方法

最後に、相談で実際に多い失敗の型を挙げておきます。いずれも「順番を飛ばしたこと」が原因です。

第一に、税率だけでラブアンを選び、実質活動要件を満たせずに24%課税に戻るケース。設立時点で常勤従業員とラブアンでの支出をどう確保するかを設計していないと、この結果になります。

第二に、資本金をRM1で設立し、あとから就労ビザ(EP)が通らないケース。会社法上の最低資本と、ビザ審査で見られる払込資本は別物です。ビザまで見据えるなら、設立時点で資本設計を済ませておくべきです。

第三に、銀行口座の開設難易度を軽視するケース。マレーシアの金融機関はマネーロンダリング対策の観点から、実体の薄い法人・非居住者が支配する法人の口座開設に慎重です。設立から口座開設まで数か月かかることも珍しくなく、対面での面談を求められるのが通常です。

第四に、日本側の合算税制を検討せずに設立し、後年の税務調査で問題になるケース。これがもっとも損失が大きくなります。

これらはすべて、事業実態→器→税率→ビザ→口座、という順番で設計すれば避けられます。個別の状況に応じた進め方については、無料相談で整理できます。

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出典

マレーシア法人設立、条件から逆算して整理しませんか?

本土のSdn Bhdかラブアン法人か、資本金をいくらにするか、ビザは取れるか、日本側の合算税制はどうなるか。順番を間違えると後戻りできません。まずは無料相談で、あなたの事業実態に合う設計を整理できます。

よくある質問

マレーシアの法人設立にかかる期間はどのくらいですか?

SSMへの登記自体は、書類が揃っていれば名称予約から登記完了まで1〜2週間程度です。ただし実務では、定款や取締役・株主の証明書類の準備、カンパニーセクレタリーの選任、税務登録まで含めて2〜4週間が目安になります。さらに銀行口座の開設に2週間〜2か月、就労ビザの取得に1〜3か月かかるため、事業を実際に開始できるまでは3〜6か月を見込むのが現実的です。

外国人100%出資でマレーシア法人を設立できますか?

多くの業種で可能です。マレーシアは製造業やサービス業の広い分野で外資100%出資を認めています。ただし小売・卸売(WRT許可が必要)、建設、石油・ガス、教育、運輸など、外資比率やライセンスに規制がある業種が存在します。また外資100%の場合、就労ビザ申請時に求められる払込資本の水準が高くなる傾向があります。業種ごとの規制はMIDA(マレーシア投資開発庁)や所管官庁の情報を確認してください。

カンパニーセクレタリーとは何ですか。必ず必要ですか?

必要です。Companies Act 2016により、Sdn Bhdは設立後30日以内にSSM登録の有資格者をカンパニーセクレタリーとして選任する義務があります。役割は登記事項の変更届出、株主総会・取締役会の議事録管理、年次申告(Annual Return)の提出など、会社法上のコンプライアンス実務全般です。日本の会社にはない役職ですが、マレーシアでは法定の必置ポジションであり、選任を怠ると罰則の対象になります。

本土のSdn Bhdとラブアン法人、どちらを選ぶべきですか?

顧客と事業実態の所在で決まります。マレーシア国内の顧客に商品・サービスを提供する、現地で従業員を雇う、現地の許認可が必要な事業であれば本土のSdn Bhdです。顧客が国外にあり、マレーシアを国際取引や持株の拠点として使う場合はラブアン法人が選択肢に入ります。ただしラブアンは実質活動要件を満たすコストが発生するため、一定以上の利益規模がないと維持費のほうが上回ります。

法人を設立すると、日本の税金は減りますか?

自動的には減りません。日本の居住者が持分5%以上を保有する外国関係会社は、租税負担割合が20%未満であれば外国子会社合算税制の対象となり、経済活動基準を満たさない限り、その所得が日本側で合算課税されます。法人税3%のラブアン法人はこの基準に正面から該当します。「マレーシアに法人を作れば日本の課税を避けられる」という理解は誤りであり、実行前に必ず国際税務に詳しい税理士へご相談ください。

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