マレーシア 会社設立 種類
マレーシアの会社形態5種類|Sdn Bhd・支店・駐在員事務所の違い
最終更新日:2026-08-07
マレーシア進出の相談で最初に聞かれるのが「支店と現地法人、どちらがいいですか」という質問です。しかしマレーシアの場合、選択肢は2つではなく5つあり、それぞれ「営業活動ができるか」「課税されるか」「ビザが取れるか」が異なります。とくに駐在員事務所(RO)は営業行為が一切できないため、収益を上げる目的では使えません。この記事では、5つの形態を実務上の判断軸で比較します。
5つの形態を一枚で比較する
マレーシアで事業を行う器は、大きく5種類あります。Sdn Bhd(非公開有限会社)、Berhad(公開会社)、外国会社の支店(Branch)、駐在員事務所(Representative Office / Regional Office)、そしてラブアン法人です。
実務上、日本企業・日本人の選択肢はSdn Bhd、支店、駐在員事務所、ラブアン法人の4つに絞られます。Berhadは公開会社であり、上場や公募を前提とする形態のため、通常の進出では選びません。
比較の軸は、法人格の有無、営業活動の可否、課税関係、設立の手間、そして就労ビザが取れるかどうかです。とくに最後の2点は、実際に人を送り込めるかを決めるため、意思決定に直結します。
| 形態 | 法人格 | 営業活動 | 課税 | 就労ビザ | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| Sdn Bhd | あり(独立) | 可 | 24%(SMEは15〜17%の軽減あり) | 取得可 | 最も一般的な現地法人 |
| Berhad | あり(独立) | 可 | 同上 | 取得可 | 公開会社・上場を想定 |
| 支店(Branch) | なし(本社の一部) | 可 | マレーシア源泉所得に24% | 取得可 | 本社と一体で契約したい場合 |
| 駐在員事務所(RO) | なし | 不可(調査・連絡のみ) | 収益活動がないため原則対象外 | 限定的に取得可 | 市場調査・情報収集 |
| ラブアン法人 | あり(独立) | 可(国内取引は制約あり) | 3%/0%(要件充足時) | ディレクター向け制度あり | 国外向け取引・持株 |
Sdn Bhd:迷ったらこれになる標準形
Sdn Bhd(Sendirian Berhad)は、日本の株式会社に相当する非公開有限会社です。マレーシアで設立される会社の圧倒的多数がこの形態で、進出形態としての標準です。
最大の特徴は、本社から独立した法人格を持つことです。マレーシア法人の債務は原則として日本の親会社に及ばず、リスクが遮断されます。また現地法人として銀行融資、政府のインセンティブ申請、公共入札への参加が可能になります。
税務上も、中小企業(SME)に該当すれば課税所得の一部に15〜17%の軽減税率が適用されます。ただし親会社の払込資本がRM250万を超える場合は関連会社要件でSME判定から外れるため、日系大手の現地子会社は標準24%になるのが通常です。
設立要件は、株主1名以上、マレーシアに主たる居所を有する取締役1名以上、そして設立後30日以内のカンパニーセクレタリー選任です。
支店(Branch):法人格がなく、本社が責任を負う
外国会社の支店は、日本の本社の一部としてマレーシアに登録される形態です。SSMに外国会社(Foreign Company)として登録します。
独立した法人格を持たないため、支店の債務・訴訟リスクは日本の本社に直接及びます。この点がSdn Bhdとの決定的な違いです。一方で、本社の実績・信用をそのまま使えるため、大型契約や公共案件で本社名義が必要な場合には支店が選ばれます。建設業やプラント関係で採用例があります。
課税は、マレーシア国内源泉所得に対して24%です。支店はSMEの軽減税率の対象外として扱われます。また支店の利益を本社に送る際の取扱い、経費配賦の妥当性など、税務上の論点はSdn Bhdより複雑になります。
登録には、マレーシア居住のエージェント(代理人)の選任が必要です。
駐在員事務所(RO):営業できないことを理解して使う
駐在員事務所(Representative Office、地域統括の場合はRegional Office)は、マレーシア市場の調査・情報収集・本社との連絡を目的とする拠点です。MIDAなど所管官庁の承認を得て設置します。
最も重要な制約は、営業活動が一切できないことです。契約締結、請求書の発行、商品の販売、サービスの提供、いずれも認められません。収益を上げないため、原則として法人税の課税対象にもなりません。運営費用はすべて本社が負担します。
設置期間には上限があり、通常は2年程度の承認で、延長の可否は活動内容によります。あくまで本格進出の前段階、市場性を見極めるためのステップと位置づけるべきです。
「まず駐在員事務所を作って、売れそうならSdn Bhdに切り替える」という進め方は合理的です。ただし、事務所開設のコストと承認手続きの手間を考えると、事業の見込みが立っているなら最初からSdn Bhdを設立するほうが早いケースも多くあります。
- 営業・販売・契約締結は不可
- 請求書の発行も不可
- 収益活動がないため、原則として法人課税の対象外
- 承認期間は通常2年程度(延長には審査あり)
- 運営費は日本本社が負担する
- 本格進出前の市場調査フェーズ向け
ラブアン法人:国外向け事業の器
ラブアン法人は、マレーシア連邦直轄領ラブアン島のLabuan IBFC(国際ビジネス金融センター)に設立する法人です。Labuan Companies Act 1990に基づき、Labuan FSAが監督します。
本土の法人と異なり、課税はLabuan Business Activity Tax Act 1990によります。トレーディング活動は監査済み純利益の3%、投資保有などのノントレーディング活動は0%です。ただし2019年以降は業種別の実質活動要件が課され、これを満たさなければ通常の24%課税に戻ります。
設立はLabuan FSAが認可した登録エージェント(トラストカンパニー)を通じてのみ可能で、自力でSSMに申請するSdn Bhdとは手続きの性質が異なります。
マレーシア国内の顧客と取引すること自体は可能ですが、支払側のマレーシア法人で損金算入が制限されるため、国内向けビジネスには実務上向きません。国外の顧客を相手にする貿易・サービス、あるいはグループの持株会社としての用途が中心になります。
どう選ぶか:3つの質問で絞り込む
形態選択は、次の3つの質問に答えれば概ね絞り込めます。
第一に「マレーシア国内で収益を上げるか」。上げないなら駐在員事務所、上げるなら以下へ進みます。第二に「顧客はマレーシア国内か国外か」。国内ならSdn Bhdまたは支店、国外中心ならラブアン法人が候補に入ります。第三に「本社と法的責任を切り離したいか」。切り離したいならSdn Bhd、本社の信用を前面に出したいなら支店です。
実務上は、9割方がSdn Bhdに落ち着きます。支店は本社名義が必要な特殊な事情がある場合、駐在員事務所は市場調査フェーズ、ラブアンは国外向けの事業実態がある場合の選択肢と考えてください。
迷う場合は、ビザから逆算するのも有効です。現地に人を常駐させるなら、就労ビザを取りやすい形態と資本構成を先に決めておくと、後戻りが少なくなります。
出典
よくある質問
支店とSdn Bhd、どちらが税務上有利ですか?
一般にはSdn Bhdが有利です。支店はマレーシア源泉所得に対して一律24%が課され、中小企業向けの軽減税率(15〜17%)の対象になりません。またマレーシアは配当に対するシングルティア制度を採用しており、Sdn Bhdからの配当は株主段階で原則非課税です。一方、支店は本社と一体であるため、経費配賦や利益送金の税務上の取扱いが複雑になります。ただし本社の信用を使う必要がある大型契約では支店が選ばれることもあり、税務だけで決まる論点ではありません。
駐在員事務所でも就労ビザは取れますか?
取れる場合がありますが、限定的です。駐在員事務所には承認された人数枠の範囲で駐在員を置くことができ、そのための就労許可が発給されます。ただし人数枠は少なく、活動範囲が調査・連絡に限定されているため、営業担当を多数配置するような使い方はできません。現地で人を増やして事業を展開する予定があるなら、最初からSdn Bhdを設立するほうが現実的です。
駐在員事務所からSdn Bhdへの切り替えはできますか?
できます。実務上もよくある流れです。ただし駐在員事務所が自動的にSdn Bhdへ「変更」されるわけではなく、新たにSdn Bhdを設立し、駐在員事務所を閉鎖する手続きになります。従業員の雇用契約、就労ビザ、オフィスの賃貸契約なども新法人へ移し替える必要があるため、切り替え時期は事業計画と合わせて設計してください。
ラブアン法人と本土のSdn Bhdを両方持つことはできますか?
可能です。ラブアン法人を持株会社とし、その傘下に本土のSdn Bhdを置く構成も実務上見られます。ただしこの場合、ラブアン法人の実質活動要件、本土法人からラブアン法人への支払いに対する損金算入制限、そして日本側の外国子会社合算税制の3点をすべてクリアする設計が必要です。ストラクチャーが複雑になるほど税務リスクも増えるため、必ず国際税務の専門家と設計してください。
免責事項
本サイトの情報は執筆・更新時点の調査に基づくものであり、マレーシアの会社法・税制・ラブアンの実質活動要件・ビザ要件、および日本の国際課税制度は予告なく変更される場合があります。また、実際の税務上の取扱いは個別の事業実態によって大きく異なります。本サイトの情報は一般的な解説であり、税務・法務上の助言ではありません。実行の前には必ずSSM・LHDN・Labuan FSAなどの公的機関の最新情報を確認し、マレーシアおよび日本の有資格専門家(会計士・税理士・弁護士)にご相談ください。本サイトの情報に基づく判断・行動の結果について、運営者は責任を負いかねます。