マレーシア 法人設立 ビザ
マレーシア法人設立とビザ|EPの給与・資本金要件とラブアンのワークパーミット
最終更新日:2026-10-08
執筆:Yuto Nishitani(ラブアン法人代表・クアラルンプール在住)
「マレーシアに法人を作れば、そのままマレーシアに住める」と考える方は多いのですが、法人の設立とビザの取得は別の手続きです。結論から言うと、自社でEmployment Pass(EP)を取るには、①会社がESD(入国管理局の外国人専門職部門)に登録できる払込資本を持ち、②自分に支払う給与がEPの区分ごとの最低額を満たし、③事業に実体があることを示す必要があります。2026年6月1日からはEPの給与要件がほぼ倍に引き上げられたため、以前の情報のまま設計すると申請段階で行き詰まります。この記事では、法人設立から逆算したビザの設計を解説します(2026年10月時点)。
まず結論:法人を作るだけではビザは出ない
マレーシアの会社法上、Sdn Bhdの最低払込資本はRM1で、外国人100%出資でも設立できます。しかし、その会社が外国人を雇用してEPを申請するには、入国管理局の外国人専門職部門(ESD:Expatriate Services Division)に会社を登録する必要があり、ここで払込資本や事業実態が審査されます。
つまり、会社法上の要件とビザ上の要件は別物です。RM1で設立した会社は登記上は有効でも、そのままではEPの申請主体になれません。設立時点でビザの取得を予定しているなら、資本金・給与・事業計画を最初からビザ要件に合わせて設計してください。
なお、法人を持たずに個人として長期滞在するルート(MM2H等の長期滞在ビザ)は、本サイトではなく姉妹サイトの「マレーシア移住ナビ」で扱っています。本記事は「自分の会社で就労ビザを取る」ケースに絞って解説します。
| ルート | 対象 | 主な要件 | 審査・発給機関 |
|---|---|---|---|
| Employment Pass(EP) | 本土法人(Sdn Bhd等)の経営者・専門職 | 会社のESD登録、払込資本、給与要件 | 入国管理局(ESD) |
| Malaysia Digital関連のEP | Malaysia Digitalステータスを持つIT企業 | MDECを通じた申請 | MDEC経由 |
| ラブアンのワークパーミット | ラブアン法人の経営幹部・専門職 | 法人の払込資本、給与、実体 | Labuan FSA |
| Dependant Pass | EP等の保有者の配偶者・子 | 本体のビザの区分による | 入国管理局等 |
EPの給与要件:2026年6月1日から引き上げ
マレーシア内務省は2026年1月、EPの給与要件の改定を公表し、2026年6月1日以降に提出される新規・更新の申請に新基準が適用されています。各区分の最低月額給与はおおむね2倍に引き上げられました。
あわせて、在留できる最長期間が区分ごとに設定され、カテゴリーII・IIIの申請ではマレーシア人への技能移転を示すサクセッションプラン(後継者計画)が求められるようになっています。家族帯同(Dependant Pass)の可否も区分によって扱いが異なるため、家族で移住する場合は申請前に最新の要件を確認してください。
経営者が自社でEPを取る場合、自分に支払う役員報酬がこの給与要件を満たす必要があります。カテゴリーIを取るには月RM2万(年RM24万)以上の報酬を継続して支払える事業規模が前提になり、その報酬にはマレーシアの個人所得税がかかります。会社の利益計画とあわせて設計してください。
| 区分 | 改定前 | 改定後(2026年6月1日〜) | 最長期間の目安 |
|---|---|---|---|
| カテゴリーI | RM10,000以上 | RM20,000以上 | 10年 |
| カテゴリーII | RM5,000〜9,999 | RM10,000〜19,999 | 10年(サクセッションプランが必要) |
| カテゴリーIII | RM3,000〜4,999 | RM5,000〜9,999(製造業関連はRM7,000〜9,999) | 5年(サクセッションプランが必要) |
払込資本の目安:外資比率で必要額が変わる
ESDに会社を登録してEPを申請する際、会社の払込資本は外資比率に応じた水準が実務上の目安になっています。外国人が100%出資する会社の場合はRM50万が一般的な目安で、会社法上の最低額RM1とは大きく異なります。
業種によってはさらに高い水準が求められます。外資が過半を持つ会社が小売・卸売・飲食などの流通サービス業(WRT)を営む場合、国内取引・生活費省(KPDN)のガイドラインに基づくWRTライセンスが必要で、その要件として払込資本RM100万が求められます。
これらの数値は審査部署や業種、時期によって運用が変わります。設立時の資本金を決める前に、ESDの最新の要件と自社の業種に適用されるライセンス要件を確認してください。払込資本は事業資金として使えるため、「資本金を高くする=コストが増える」わけではない点も押さえておくとよいでしょう。
| 会社の株主構成・業種 | 払込資本の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 外国人100%出資 | RM50万 | ESD登録時の一般的な目安 |
| 外資が過半の流通業(WRT対象) | RM100万 | KPDNのWRTライセンス要件 |
| 会社法上の最低払込資本(参考) | RM1 | ビザ申請には通常不足 |
申請の流れ:設立からEP取得までの順番
自社でEPを取得するまでの順番は、概ね次のとおりです。ポイントは、会社の設立・口座開設・ESD登録・EP申請が相互に依存していることです。
たとえば、銀行口座がないと払込資本の入金を証明できず、払込資本の証明がないとESDに登録できません。一方で、銀行によっては居住取締役の在留資格を口座開設の条件にすることがあり、手続きが循環してしまうことがあります。
このため、設立当初は在留資格を持つ居住取締役(設立代行会社が提供するノミニー取締役を含む)を置き、EP取得後に自分が居住取締役となる形が実務上よく使われます。ただしノミニー取締役にも会社法上の責任が生じるため、契約内容は慎重に確認してください。
- 1. Sdn Bhdの設立(SSM登記・カンパニーセクレタリー選任)
- 2. 法人の銀行口座開設と払込資本の入金
- 3. 事業所(オフィス)の確保と、事業計画・組織図の準備
- 4. ESD(MYXpats Centre)への会社登録
- 5. EPの申請(給与・職務内容・学歴や職歴の証明)
- 6. 承認後の入国・ビザの貼付と、家族のDependant Pass申請
関連: マレーシア法人の銀行口座開設
ラブアン法人のワークパーミット
ラブアン法人の場合、就労の許可は本土のESDではなくLabuan FSAが窓口となるワークパーミットの制度で扱われます。対象は取締役・CEO等の経営幹部や、ラブアンでの事業に関わる専門職です。
審査では、法人の払込資本、本人の報酬、そして実質活動要件を満たす事業体制があるかが確認されます。Labuan FSAの公表資料では、ライセンス業種以外の法人について一定の最低払込資本(RM25万)が示されており、現地の法律事務所の解説では月額RM1万以上の報酬、2年ごとの更新が一般的とされています。数値は改定されることがあるため、申請前に必ずLabuan FSAまたは登録エージェントに最新の要件を確認してください。
注意したいのは、ワークパーミットの取得とラブアンの3%課税の適用は別の問題だという点です。3%(トレーディング活動)は業種別の実質活動要件(常勤従業員数・ラブアンでの年間支出)を満たすことが前提で、満たさなければ24%課税になります。ビザのためだけにラブアン法人を作る設計は、税務とコストの両面で成り立ちにくいと考えてください。
日本側の論点:居住者判定・国外転出時課税・合算税制
EPを取得してマレーシアに移り住む場合、日本の税務上の居住者・非居住者の判定が重要になります。日本の非居住者になるには、生活の本拠を実際に海外に移す必要があり、住民票の異動だけでは足りません。滞在日数、家族の居所、職業、資産の所在などから総合的に判断されます。
日本の非居住者になれば、マレーシア法人について日本の外国子会社合算税制が適用されることは原則としてなくなります。逆に、日本の居住者のままマレーシア法人を保有する場合は、法人の租税負担割合が20%未満であれば合算税制の判定対象になります。ラブアン法人は要件充足時3%で20%を下回ります。本土法人は、日本人が過半を出資する場合は中小の軽減税率が使えず通常24%ですが、優遇税制で税負担が下がる場合は20%を下回り得ます。
また、出国時に対象となる有価証券等を1億円以上保有している場合は、国外転出時課税の対象になります。日本の会社の株式を持ったまま移住する経営者は、出国前に必ず確認してください。
ビザ・税務の判断は個別事情で結論が変わります。本記事は制度の整理であり、実行前には日本とマレーシアの専門家に確認してください。
関連: タックスヘイブン対策税制とは
出典
この記事を書いた人
Yuto Nishitani
ラブアン法人代表・クアラルンプール在住
ラブアン法人代表。2025年10月からマレーシア・クアラルンプールのブキッ・ビンタンに住み、ラブアン法人の就労許可(Labuan EP)で暮らしています。
日本法人・ドバイ法人・ラブアン法人を保有する当事者として、法人設立・維持・ビザ・日本側の税務を、自分の判断材料として調べてきました。
記事は一次資料に基づいて書いており、制度の解説と自分の経験は区別して記載しています。
よくある質問
自分の会社で自分のEPを申請できますか?
可能です。ただし会社がESDに登録できる払込資本と事業実態を備え、自分に支払う報酬がEPの区分ごとの最低給与を満たす必要があります。2026年6月1日以降はカテゴリーIで月RM2万以上、カテゴリーIIで月RM1万以上が基準です。
資本金RM1の会社でEPは取れますか?
通常は難しいと考えてください。会社法上はRM1で設立できますが、EPの申請時には外資比率に応じた払込資本が実務上の目安になり、外国人100%出資ではRM50万が一般的です。業種によってはさらに高い水準が必要です。
2026年6月より前に取得したEPはどうなりますか?
新しい給与要件は、2026年6月1日以降に提出される新規申請と更新申請に適用されます。そのため、既存のEPも更新時に新基準を満たす必要があります。更新時期が近い場合は、役員報酬の水準を早めに見直してください。
家族を帯同できますか?
EPの保有者は、区分に応じて配偶者や子どものDependant Passを申請できます。帯同の可否や条件は区分ごとに異なり、改定も行われているため、申請時点の最新要件をESDで確認してください。
ラブアン法人のワークパーミットで本土に住めますか?
現地の法律事務所の解説では、ラブアンのワークパーミット保有者はラブアンに加えて半島マレーシアにも居住できるとされています。ただしラブアン法人の実質活動要件はラブアンでの雇用と支出を求めるため、ビザ上の居住地と法人の実体をどう両立させるかは別途設計が必要です。
免責事項
本サイトの情報は執筆・更新時点の調査に基づくものであり、マレーシアの会社法・税制・ラブアンの実質活動要件・ビザ要件、および日本の国際課税制度は予告なく変更される場合があります。また、実際の税務上の取扱いは個別の事業実態によって大きく異なります。本サイトの情報は一般的な解説であり、税務・法務上の助言ではありません。実行の前には必ずSSM・LHDN・Labuan FSAなどの公的機関の最新情報を確認し、マレーシアおよび日本の有資格専門家(会計士・税理士・弁護士)にご相談ください。本サイトの情報に基づく判断・行動の結果について、運営者は責任を負いかねます。