シンガポール 法人設立 マレーシア 比較
シンガポール法人設立とマレーシアの比較|税率17%と24%・維持費・ビザの違い
最終更新日:2026-10-08
執筆:Yuto Nishitani(ラブアン法人代表・クアラルンプール在住)
海外法人の設立先として、シンガポールとマレーシアは必ず比較対象になります。結論から言うと、税率だけを見ればシンガポール(17%、免税制度後の実効税率はさらに低い)が有利ですが、維持費・人件費・ビザの給与要件を含めた総コストではマレーシアが大きく下回ります。そして日本の居住者が保有する場合は、シンガポール法人やマレーシアのラブアン法人は、日本の外国子会社合算税制の「20%未満」の判定に入り得ます。この記事では、両国の法人設立を数字で比較します(2026年10月時点)。
まず結論:規模と居住地で選ぶ
シンガポールの強みは、法人税率の低さ、金融・法制度の安定性、国際的な信用力です。資金調達やアジア統括拠点、金融関連事業ではシンガポールが優位です。
マレーシアの強みは、維持コストと人件費・生活費の低さ、そしてラブアン法人という別制度を含めた選択肢の広さです。経営者自身が現地に住み、少人数で事業を行う規模であれば、総コストでマレーシアが有利になるケースが多くなります。
どちらの国でも共通しているのは、現地に実体がなければ制度上のメリットは得られないということです。日本に住んだまま箱だけを作る設計は、どちらを選んでも成立しません。
| 項目 | シンガポール(Pte Ltd) | マレーシア(Sdn Bhd) |
|---|---|---|
| 法人税率 | 17%(部分免税・スタートアップ免税あり) | 24%(中小の15%・17%は外国資本20%以下の会社のみ) |
| 配当の課税 | ワンティア制度(株主段階で原則非課税) | シングルティア制度(同左。個人の高額配当に2%課税あり) |
| 設立の公的手数料 | S$315(名称申請S$15+登記S$300) | RM1,050(名称予約RM50+登記RM1,000) |
| 居住取締役 | 1名以上が必須 | 1名以上が必須(マレーシアに主たる居所) |
| 会社秘書役 | 設立後6か月以内に選任 | 設立後30日以内に選任 |
| 就労ビザの最低給与 | EP:月S$5,600以上(金融業S$6,200) | EP:カテゴリーIIIで月RM5,000以上(2026年6月〜) |
| 年間維持費の目安 | 約100万〜250万円 | 約30万〜70万円 |
| 別制度の選択肢 | — | ラブアン法人(条件付き3%) |
関連: 法人税が安い国の比較 /国別比較の記事一覧
法人税の比較:表面税率と実効税率
シンガポールの法人税率は17%ですが、すべての会社に部分免税(Partial Tax Exemption)が適用され、課税所得の最初のS$1万の75%、次のS$19万の50%が非課税になります。設立から最初の3課税年度は、一定の要件を満たせばスタートアップ免税(最初のS$10万の75%、次のS$10万の50%が非課税)を選べます。さらにYA2026には法人税の50%リベート(上限S$4万)が設けられています。
これらを当てはめると、課税所得S$20万の会社の実効税率は、部分免税で約8.3%、スタートアップ免税で約6.4%になります(リベート前)。
マレーシアは標準24%です。払込資本RM250万以下などの要件を満たす中小企業は、課税所得の最初のRM15万に15%、RM60万までの部分に17%が適用され、課税所得RM60万なら税額RM9.9万(約16.5%)です。ただし2024年の賦課年度からは、払込資本の20%超を外国法人やマレーシア国籍でない個人が保有する会社は対象外になりました。日本人が出資する会社は通常24%(課税所得RM60万ならRM14.4万)です。
つまり日本人が出資する小規模な会社同士で比べると、シンガポールの実効税率はマレーシア(24%)の3分の1程度になります。ただし税額の差は、次に見る維持コストの差で相殺されることが少なくありません。
| ケース | 課税所得 | 税額 | 実効税率 |
|---|---|---|---|
| シンガポール(部分免税) | S$200,000 | S$16,575 | 約8.3% |
| シンガポール(スタートアップ免税) | S$200,000 | S$12,750 | 約6.4% |
| マレーシア(外国資本20%以下の中小企業) | RM600,000 | RM99,000 | 約16.5% |
| マレーシア(日本人が出資する会社など) | RM600,000 | RM144,000 | 24% |
関連: マレーシアの法人税【2026年】
設立と維持のコスト:差が出るのは毎年の固定費
設立時の公的手数料は、シンガポールがS$315、マレーシアがRM1,050程度で、どちらも大きな負担ではありません。設立代行の費用を含めても、初期費用の差は意思決定を左右するほどではありません。
差が出るのは毎年の固定費です。シンガポールは会社秘書役、記帳・決算、税務申告の報酬水準が高く、経営者自身がシンガポールに住んでいない場合は居住取締役(ノミニー取締役)の費用が別途かかります。オフィス賃料と人件費も高水準です。
マレーシアは同じ内容の業務を、概ね数分の1のコストで外部委託できます。監査についても、シンガポールは一定規模以下の小規模会社に監査免除があり、マレーシアも2025年から監査免除の基準が段階的に緩和されています。
| 項目 | シンガポール | マレーシア |
|---|---|---|
| 会社秘書役 | 年 数百〜数千S$ | 年 RM3,600〜9,600程度 |
| ノミニー取締役(必要な場合) | 年 数千S$ | 年 数千RM |
| 記帳・決算・税務申告 | 年 数千S$〜 | 年 RM3,000〜 |
| 監査 | 小規模会社は免除あり(3基準中2つ) | 2025年から免除基準を段階緩和(3基準中2つ) |
| 年間合計の目安 | 約100万〜250万円 | 約30万〜70万円 |
居住取締役とビザ:住む人がいるかで決まる
シンガポールもマレーシアも、会社には現地に居住する取締役が最低1名必要です。経営者自身が現地に住む場合は自分が就任できますが、住まない場合は第三者に依頼する必要があり、費用と責任の問題が生じます。
シンガポールで経営者がEPを取るには、月S$5,600以上(金融業はS$6,200以上)の給与が基準で、年齢が上がるほど求められる水準も上がります。さらに2027年1月以降の新規申請からはS$6,000(金融業S$6,600)に引き上げられることが公表されています。加えて、COMPASSと呼ばれるポイント制の審査があります。
マレーシアのEPも2026年6月に給与要件が引き上げられ、カテゴリーIIIで月RM5,000以上、カテゴリーIで月RM2万以上になりました。それでも、生活費を含めた負担はシンガポールより低く抑えられます。外資100%の会社では、払込資本RM50万程度が実務上の目安になる点も設計に織り込んでください。
関連: マレーシア法人設立とビザ
日本側の論点:17%も合算税制の対象判定に入る
日本の外国子会社合算税制は、租税負担割合が20%未満の外国関係会社を判定の対象にします。シンガポールの表面税率17%は20%を下回り、部分免税やスタートアップ免税を使えば実際の税負担はさらに低くなります。
マレーシアの本土法人は標準24%で、日本人が過半を出資する会社は中小の軽減税率も使えないため、通常は20%以上となり判定の対象外です。ただし優遇税制で実際の税負担が20%を下回る場合や、ラブアン法人(要件充足時3%)は判定の対象に入ります。
判定の対象になった場合は、経済活動基準(事業基準・実体基準・管理支配基準・所在地国基準または非関連者基準)をすべて満たさない限り、会社の所得が日本の株主に合算されます。どちらの国を選ぶにしても、現地に事務所を構え、現地で経営判断を行う実体が前提です。
なお日本はシンガポール・マレーシアのいずれとも租税条約を結んでいますが、租税条約は合算税制の適用を止めるものではありません。個別の判定は国際税務に詳しい税理士に確認してください。
関連: タックスヘイブン対策税制とは
ケース別の選び方
最後に、典型的なケースごとの選び方を整理します。いずれも一般論であり、事業内容によって結論は変わります。
- 外部から資金調達をする、金融・資産運用業を営む → シンガポールが有力
- アジア統括拠点として大企業の信用を前面に出す → シンガポールが有力
- 経営者が現地に住み、少人数でIT・コンサル・ECを営む → 総コストでマレーシアが有力
- マレーシア国内の顧客に販売する → マレーシア本土のSdn Bhd
- 国外顧客向けの取引・持株で、現地に実体を置ける → ラブアン法人も選択肢(実質活動要件が前提)
- 日本に住んだまま節税だけを狙う → どちらの国でも成立しない
関連: マレーシア法人設立ガイド /ラブアン法人とは
出典
- EY Malaysia|Finance Bill 2023(中小企業の外国資本20%要件)
- IRAS(シンガポール内国歳入庁)|Corporate Income Tax Rate, Rebates & Tax Exemption Schemes
- ACRA(シンガポール会計企業規制庁)|Company registration
- Ministry of Manpower Singapore|Employment Pass
- LHDN(マレーシア内国歳入庁)|法人税率
- SSM(マレーシア企業委員会)
- 入国管理局 ESD(Expatriate Services Division)
- 国税庁|外国子会社合算税制の概要
この記事を書いた人
Yuto Nishitani
ラブアン法人代表・クアラルンプール在住
ラブアン法人代表。2025年10月からマレーシア・クアラルンプールのブキッ・ビンタンに住み、ラブアン法人の就労許可(Labuan EP)で暮らしています。
日本法人・ドバイ法人・ラブアン法人を保有する当事者として、法人設立・維持・ビザ・日本側の税務を、自分の判断材料として調べてきました。
記事は一次資料に基づいて書いており、制度の解説と自分の経験は区別して記載しています。
よくある質問
シンガポールとマレーシア、法人税はどちらが安いですか?
小規模な会社の実効税率はシンガポールのほうが低くなります。課税所得S$20万の会社では、部分免税で約8.3%、スタートアップ免税で約6.4%です。マレーシアは、日本人が出資する会社だと中小の軽減税率が使えず24%です。ただし維持費・人件費を含めた総コストではマレーシアが下回ることが多く、税率だけで決めないことが重要です。
シンガポール法人の設立に、シンガポールに住む人は必要ですか?
必要です。シンガポールの会社には、シンガポールに通常居住する取締役が最低1名必要です。経営者が住まない場合はノミニー取締役を依頼することになり、年間の費用と、取締役としての法的責任の問題が生じます。マレーシアにも同様の居住取締役要件があります。
シンガポール法人なら日本の合算税制の対象外ですか?
対象外ではありません。シンガポールの法人税率17%は日本の外国子会社合算税制の基準である20%を下回るため、日本の居住者・内国法人が支配する場合は判定の対象に入ります。経済活動基準を満たすかどうかで合算の有無が決まります。
両国に法人を持つメリットはありますか?
シンガポールを統括・資金調達の拠点、マレーシアを実務・開発の拠点とする構成は実際に見られます。ただし法人が増えると維持費が二重にかかり、関連者間取引の移転価格や日本の合算税制の判定も複雑になります。事業規模が十分大きくなってから検討するのが一般的です。
免責事項
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